きものスタイリスト 大久保信子流 季節を彩る晴れ着スタイル 晴れ着の丸昌 横浜店

卒業式の装い

桜のつぼみがほころんで春めいてきたら、卒業式も間近。
前回(2月)は大学生や専門学校生の女子に向けた卒業式の装いをご提案しましたが、
今回は、卒業式に列席する母の装いをご紹介します。

丸昌のレンタル衣裳を
「大久保信子流」にコーディネート

子どもの卒業式での色無地

着用シーン

以下の着用シーンに合うアイテムを丸昌の
レンタル衣裳の中から選んでいただきました。

場面 卒業式
立場 子どもの母
年代 40代後半~50代

コーディネートのポイント

  • 先生や学校への感謝を表した装い
  • 式の場にかなう落ち着きのある装い

着物

緑色の色無地

華文の錦織袋帯

大久保先生のアドバイス

我が子の健やかな成長と学業の全課程を修了したことを祝う卒業式。母の装いには色無地がお薦めです。先生方や学校への感謝の意をお伝えする場でもあるので、母らしい落ち着いた装いを心得たいもの。あくまでも子どもたちが主役ですので、派手にならないように留意しましょう。ご自身の雰囲気に合った色選びと、帯や小物の合わせ方がコーディネートのポイントになります。

今回選んだ色無地

木の葉の裏のような淡い緑「裏柳色」

色無地とは、白生地を黒以外で一色染めした着物で、紋綸子など地紋のある生地を用いるものが多く、柄は描かれていません。今回選んだ色は、裏柳(または裏葉柳)という薄い緑色。裏葉色ともいい、その名の通り木の葉の裏側のような淡い色で、着物によく使われます。派手すぎず、地味すぎず、卒業式の場にもぴったりの色ではないでしょうか。かつては着こなしが難しいといわれていた緑色ですが、実は幅広い年齢層に似合う色。また、最近では髪の毛を茶色に染める女性も多く、こうした髪色や日本人の肌の色にもよく合います。

今回選んだ帯

柄の出し方にも意識して

格天井のひし形の中に華文が織り出された袋帯。格式のある文様ながら、華文の色が淡いパステルカラーのような色味で、モダンな印象も与えます。紫色やピンク色、青や緑など、華文がさまざまな色で織られていますが、前帯に緑色の華文を出すことで色無地の裏柳色とリンクして、しっくりなじみます。

今回選んだ小物

若々しい、明るい色でまとめて

春らしい季節感も意識して、重ね衿や帯揚げ、帯締めは明るく、若々しく見える色味に。4月の回でもお伝えしましたが、重ね衿、帯揚げ、帯締めの3つの小物のうち、2つを同じ色に揃える「2:1」の法則でまとめました。重ね衿は淡い黄色で優しい印象に、帯揚げ、帯締めはピンク色で揃え、ほどよい華やかさを出しています。

今月のメモ

一つ紋の色無地

今回選んだ一つ紋の色無地は、略礼装としてさまざまなシーンで活用できます。卒業式や入学式、七五三など子どもの門出を祝う場だけではなく、結婚式やお茶席にも。また、目上の方との会食など、いざというときにも失礼にならない着物としてたいへん重宝します。

格天井(ごうてんじょう)の柄

規則正しく組まれた角材に板を張った天井のこと。言葉は知らなくても、寺院やお城などで見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。天井には装飾がなされることも多く、制作に手間がかかるため、部屋の格式の高さを示すものとなっています。帯の文様としてもたいへん格式が高く、礼装用の帯などに用いられます。

教えてください! 愛用の一着

ポリエステルの付け下げに
茶屋辻文様の名古屋帯

――春らしい色合いの付け下げですね。

大久保先生「淡いブルーグレーの地に霞文様が描かれています。綸子なので、光沢感もあります。実はこの着物、ポリエステルの生地でできているのよ」

――ポリエステルですか!

大久保先生「最近のポリエステルはたいへん優秀で、着心地も通気性もよく、絹と見分けがつかないものも多いの。何より家で洗えて、雨の日にも安心して着られるのがうれしいですね。しわにもなりにくいので、たたんでスーツケースに入れて旅に出ることもあるんですよ」

――帯には細かい刺繍が施されていて、たいへん豪華ですね。

大久保先生「草花や山水が描かれた、格の高い茶屋辻文様の名古屋帯です。松竹梅や波の紋などが描かれ、ところどころ刺繍で縁取っているので華やかですよね。この帯は母からのお下がり。この帯のように黄味がかった茶色は年齢が高く見えやすいので、ずっと箪笥に寝かせていたの。でも、ようやく似合うようになってきました。もしかしたら、写真を撮っていただいたのは、今回が初めてかもしれないわ」

大久保信子流“今月の晴れ着スタイル”
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大久保信子さんのご紹介

1976年に某着物雑誌の制作に関わり、日本で初めて「きものスタイリスト」として紹介される。それ以降、ハースト婦人画報社、世界文化社、プレジデント社などの各雑誌、NHK、その他各種テレビ番組、着物取扱い業者のパンフレットなど、着物のスタイリングおよび着付けに幅広く携わる。十数年の日本舞踊の経験や、歌舞伎鑑賞を趣味としており、着物に関する奥行きの深い知識と美学を身につけている。常に、着る人の立場に立って、その人の持っている美しさを最大限に引き出すスタイリングと着付けには定評がある。