きものスタイリスト大久保信子 きもの語り 晴れ着の丸昌 横浜店

気軽にきものを

連載第六回(最終回)は、きものとの付き合い方について。
たくさんの方々にもっと気軽に、もっと楽しくきものを着てもらうための、
大久保信子さんからの提案です。

レンタルという選択

――東京オリンピックが来年に控えている今、日本の伝統文化に注目が集まり、その継承が見直されています。しかし、まだまだきものの敷居が高いと思われているようです。

昔は、きものも帯も親から子へと受け継がれたものですが、現代はそういう習慣が少なくなってきて、きものに触れる機会も減ってきています。いざ、きものを着たいと思っても、選び方や着方をアドバイスしてくださる身近な人も減ってきました。

そんなときに頼りになるのが「レンタル」だと思います。スタッフの皆さんはきもののプロフェッショナルですし、たくさんの衣裳の中から自分に似合う一着を選ぶことができます。メンテナンスや管理の心配もいりません。色留袖など、なかなか着る機会のないきものは、借りるということも選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。

きものには流行がないという人もいますが、時代によって色や柄などが変化します。また、結婚式などでは、参列する方の立場によっても相応しい色柄は変わるもの。レンタルなら、その時々で相応しいものが選べます。

――大久保さんは以前、色留袖を探しているとおっしゃっていました。

そうね、孫が結婚するときには色留袖を着たいと思っているの。私が持っている色留袖はターコイズブルーで少々派手なので、レンタルするのもいいわね。

――では、お孫さんの結婚式を想定して、晴れ着の丸昌横浜店で色留袖を選んでみませんか。

あら、いいわね! レンタルをするときに、お店の方がどんなアドバイスをされるか、私自身とても興味がありますし、勉強にもなりそうです。

選ぶ楽しさを体験

――では、さっそく色留袖の展示フロアに行きましょう。担当はお客様係の鈴木さんです。

大久保(以下、大) (ショールームの棚を見ながら)すてきな柄ゆきの色留袖が揃っていますね。

鈴木(以下、鈴) 大久保さんはどのような色がお好みですか。

 暖色系が好みかしら。黄色やクリーム色は苦手なの。(と言いながら、数ある色留袖の中から1着選んで)この、薄い小豆色は、いかがかしら。

 では、実際にお顔に当ててみましょう。その前に白半衿をおつけしますね。

 実際にきものを着るときは、長じゅばんに白半衿をかけるので、半衿をかけて顔映りを確認するのは大事ですね。

 (薄小豆色の色留袖を大久保さんに当てながら)いかがですか。

 (鏡を見ながら)うーん、案外お肌がくすんで見えるものね。じゃあ、この明るめのピンクはどうかしら。

 (ピンク色の色留袖を当てて)お顔がぱっと明るくみえますね。では、もう一度先ほどの小豆色の色留袖も合わせてみましょう(といって、2着重ねてみる)

実物を実際に顔に当ててみて、アドバイスをもらえるのがショールームで着物を選ぶ醍醐味。

 比べてみるとよくわかるわね。年齢を重ねると、ピンク色を避けてしまいがちですが、きものに関しては、むしろピンクはおすすめです。私にもピンクのほうが似合うみたい。

 では、帯を合わせてみましょう(と言い、着物を衣桁にかける)。

 帯はテーブルなどの上に置いて見るよりも、衣桁にかけて見るほうがいいわね。

 実際に帯を締めたときのように当ててみるほうが、色もよくわかります。きものと帯はバラバラに見ず、きものの上に帯をのせてみるとバランスの良しあしがわかりますね。

 あれもこれも、と気の済むまで比較して選べるのもレンタルのいいところね。

 ありがとうございます。できる限りお客様の年齢や立場、お好みなどに寄り添ってお話を伺うように心がけています。

 ショールームでの対面接客ならではのサービスですね。何十年もきもののお仕事をしてきたけれど、レンタルできものを選ぶ体験は初めて。楽しいものですね。

単体で見るのと、きものに合わせて見るのとでは大違い。実際に当ててみるほうが着たときの印象がわかりやすい。

 ところで、履物やバッグもお借りできるのかしら。

 はい、草履とバッグは浅草の老舗である金ワシ製が人気です。足袋も老舗のものを採用していて、こちらは新品をプレゼントさせていただきます。

 着付け小物もお借りできるのね!

 はい、着物をレンタルしていただくと、肌着をはじめ、紐や伊達締め、帯枕や帯板、衿芯などもすべて一式セットになっていますので、お客様にご準備いただくものはありません。補整が必要な方はタオルを2〜3枚用意しておくことをお勧めします。

 この箱は?

 特製の衣裳箱です。どの方向に箱を傾けてもきものにシワが寄らない特殊設計になっています。二段式になっていて、下段にきもの、帯、長じゅばん、帯揚げを、上段に着付け小物や帯締め、肌着、足袋、扇子、草履、バッグが収納できます。

 この状態で自宅に届くのね。

 式場や美容室に直接お届けすることもできます。

衣裳箱にはお客様に安心して式に臨んでいただけるよう、細部にさまざまな工夫が施されている。

実際に着てみると…

――先ほど選ばれたおきものを、実際にお召しになってみて、いかがですか。

透明感のあるピンクが肌の色をきれいに見せてくれますね。柄は大きな松に、菊、桔梗、なでしこ、牡丹に桜など、四季折々の花を散らしていて、ところどころ金糸で刺繍が施され、とても上品。留袖は道長取りが多いけれど、横段もモダンで素敵です。

帯も柄がやや大きめで、金色が明るく華やか。「帯に派手なし」という言葉があるように、地味ではない帯を選ぶのがコツですね。はじめは少し派手かと思いましたが、こうして着てみると、とてもバランスがいいですね。孫が結婚するときには、このセットでレンタルしようかしら。

――サイズはいかがでしょうか。

お客様によってサイズはマチマチなので、補整用のタオルなどは用意してもいいかもしれませんね。ただ、私の場合は、少しだけ丈が長く、余分な丈をすべてお腹に収めたので、補整は必要ありませんでした。お誂えのサイズではなくても、心地よく着られますよ。

――あらためて、レンタルのよさを教えてください。

まず、きものの知識がない人にとってよきアドバイザーがいるところではないでしょうか。わからないことを何でも教えてくれて、自分に似合うものを的確にアドバイスしてくれるので安心ですね。

きものを購入すると仕舞うスペースが必要ですし、お手入れも自分でやらなくてはなりませんが、レンタルならその心配がいりません。また、毎回違う色や柄を選んで楽しむこともできます。

ほかに、着付け小物まで一式借りることができるので、ひとつひとつそろえる手間もかからず楽ですね。

レンタルできものとの距離を縮めてから、お気に入りの一着を探すのもよいと思います。まずはレンタルできものをもっと気軽に楽しんでみてはいかがですか。

きもの豆知識

~色留袖コーディネート~
若い人が結婚式に親族として
参列する場合

少しグレーがかったピンクが華やかさを感じさせます。熨斗に丸紋が印象的。丸い柄は可愛らしさがあるので、30代の若い女性におすすめです。丸紋の中には唐花や花菱など古典的な文様が描かれています。帯も正倉院文様や鳳凰など、格の高い柄ゆきで華やかなきものにマッチしています。

40代の伯母のほうは、30代に比べて少し落ち着きのあるとりのこ色の色留袖。吉祥文様の文箱は金駒刺繍で立体感を出しています。帯の柄も30代の帯と比べると、少し小さめですが、花菱の色が多彩でモダンです。

どちらも結婚式など、おめでたい席にぴったりではないでしょうか。

教えてください! 愛用の一着

竺仙で一目ぼれした綿紬の浴衣です。「きもの語り第五回」で、コーディネートをご紹介しています。今年仕立てたばかりで、今日初めて袖を通しました。紺白の浴衣ですが、萩の柄の上に朝顔の模様が付け下げのように描かれていて個性的でしょう。ゆかたはバチ衿仕立てが一般的ですが、私は広衿仕立てにします。そのほうが大人っぽく見えるんです。帯は麻の八寸名古屋帯です。こちらも竺仙で購入しました。ピンクが紺の浴衣によく映えます。小物は白っぽい色でまとめると涼やかな印象に。暑苦しく見えるので、帯揚げは帯の中に収めてすっきりとした着こなしにするのが私流です。

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大久保信子さんのご紹介

1976年に某着物雑誌の制作に関わり、日本で初めて「きものスタイリスト」として紹介される。それ以降、ハースト婦人画報社、世界文化社、プレジデント社などの各雑誌、NHK、その他各種テレビ番組、着物取扱い業者のパンフレットなど、着物のスタイリングおよび着付けに幅広く携わる。十数年の日本舞踊の経験や、歌舞伎鑑賞を趣味としており、着物に関する奥行きの深い知識と美学を身につけている。常に、着る人の立場に立って、その人の持っている美しさを最大限に引き出すスタイリングと着付けには定評がある。